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2023.06.01

【経営】三位一体の労働市場改革の方向性について、論点案を提示

 首相官邸において「第16回新しい資本主義実現会議」の資料が公表されています。今回の会議では、三位一体の労働市場改革の方向性について議論が行われ、会議資料としては、「三位一体労働市場改革の論点案」が提示されています。この中では、働き方は大きく変化しており『キャリアは会社から与えられるもの』から『一人一人が自らのキャリアを選択する』時代となっていること、職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分の意思でリ・スキリングを行い、職務を選択できる制度に移行していくことが重要であるとされています。そうすることにより、社外からの経験者採用にも門戸を開き、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにしていくことが、日本企業と日本経済の更なる成長のためにも急務であるとしています。

■三位一体労働市場改革の論点案

【1.リ・スキリングによる能力向上支援】

(1)個人への直接支援の拡充

○企業経由が中心となっている在職者への学び直し支援策について、現在、企業経由が75%(771億円(人材開発支援助成金、公共職業訓練(在職者訓練)、生産性向上人材育成支援センターの運営費交付金))、個人経由が25%(237億円(教育訓練給付))となっている。これについて、5年以内を目途に、職務給の普及に応じ、過半が個人経由の給付が可能なようにしてはどうか。

○その際、業種を問わず適用可能な科目についてのリ・スキリングが、労働者の中長期的なキャリア形成に有効との先進諸国での経験を踏まえ、業種・企業を問わずスキルの証明が可能なOff-JTでの学び直しに、より重点を置く(民間教育会社が実施するトレーニング・コースや大学が実施する学位授与プログラムなど)こととしてはどうか。

○専門実践教育訓練(専門職学位課程・国家資格などのリ・スキリングを行う際の受講費補助)について、相対的に特別なスキルが要求され、高い賃金が獲得できる分野、高いエンプロイアビリティの向上が期待される分野(IT、データアナリティクス、プロジェクトマネジメント、技術研究、営業/マーケティング、経営・企画など)について、リ・スキリングのプログラムを受講する場合の補助率(現在50%(受講後1年以内に転職・就職した場合は20%上乗せ))や補助上限(現在年間40万円(受講後1年以内に就職・転職した場合の上乗せは年間上限16万円))について、プログラム完了後在職を継続する場合を含め、拡充を検討してはどうか。

○個人経由中心となる支援策について、在職者を含め労働者が自身の有するノウハウやスキルに応じて、リ・スキリングプログラムを受ける内容、進め方を、コンサルティングを受けながら適切に選択できるように、官民連携によるキャリアコンサルティングの体制整備を行ってはどうか。

○2033年までに日本人学生の海外留学者数50万人という新たな目標の実現に向けた取組みの中で、最近低調となっている社会人の海外大学院への留学を促進する。その際、在職者には時間的制約があることも考慮し、オンライン留学の取組みも進めてはどうか。

(2)「人への投資」施策パッケージのフォローアップと施策見直し

○6月までに取りまとめる労働市場改革の指針を踏まえ、パッケージの各支援策が労働者にとってより利用しやすいものとなるよう、毎年度パッケージの実施状況をフォローアップし、その結果を翌年度の予算内容へと反映する。

○併せて、受講後の処遇改善・社内外への昇進・登用に与える効果について計測し、分析を行い、施策の改善に生かす。

(3)雇用調整助成金の見直し

○現在の雇用調整助成金は、教育訓練、出向、休暇のいずれかの形態で雇用調整を行うことによる費用を補助する制度である(大企業は1/2、中小企業は2/3を補助。教育訓練による雇用調整の場合は1人1日あたり1,200円を追加支給)。

○在職者によるリ・スキリングを強化するため、休暇による雇用調整よりも教育訓練による雇用調整を選ぶことが有利となるよう、支給率(大企業1/2、中小企業2/3)及び追加支給額(1人1日あたり1,200円)を含め、検討してはどうか。

【2.個々の企業の実態に応じた職務給の導入】

(1)職務給の個々の企業の実態に合った導入

○本年6月までに三位一体の労働市場改革の指針を取りまとめ、構造的賃上げを通じ、同じ職務であるにも関わらず、日本企業と外国企業の間に存在する賃金格差を、国毎の経済事情の差を勘案しつつ、縮小することを目指す。

○指針では、職務給(ジョブ型雇用)の日本企業の人材確保の上での目的、ジョブの整理・括り方、これらに基づく人材の配置・育成・評価方法、ポスティング制度、賃金制度、休暇制度などについて、先進導入事例を整理し、個々の企業が制度の導入を行うために参考となるよう、多様なモデルを示す。

この際、個々の企業の実態は異なるので、企業の実態に合った改革が行えるよう、指針は自由度を持ったものとする。

ジョブ型雇用(職務給)の導入を行う場合においても、順次導入、あるいは、その適用に当たっても、スキルだけでなく個々人のパフォーマンスや適格性を勘案することも、あり得ることを併せて示す。

○6月までにまとめる指針に基づき、年内に、個々の企業が具体的に参考にできるよう、事例集を、民間企業実務者を中心としたWGで取りまとめてはどうか。

(2)給与制度・雇用制度の透明性

○給与制度・雇用制度の考え方、状況を資本市場や労働市場に対して可視化するため、情報開示を引き続き進める。

○また、企業が有価証券報告書や統合報告書等に記載を行う際に参考となる「人的資本可視化指針」(昨年8月策定)についても、6月までにまとめる指針の内容を踏まえ、今年末までに改訂する。

【3.成長分野への労働移動の円滑化】

(1)失業給付制度の見直し

○自らの選択による労働移動の円滑化という観点から失業給付制度を見ると、自己都合で離職する場合は、求職申込後2か月ないし3か月は失業給付を受給できないと、会社都合で離職する場合と異なる要件となっている。会社都合の場合の要件を踏まえ、自己都合離職者の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う。

(2)退職所得課税制度の見直し

○退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額されるところ、これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行ってはどうか。

(3)自己都合退職に対する障壁の除去

○民間企業の例でも、一部の企業の自己都合退職の場合の退職金の減額、勤続年数・年齢が一定基準以下であれば退職金を不支給、といった労働慣行の見直しが必要になりうる。

○その背景の一つに、厚生労働省が定める「モデル就業規則」において、退職金の勤続年数による制限、自己都合退職者に対する会社都合退職者と異なる取り扱いが例示されていることが影響しているとの指摘があることから、このモデル就業規則を改正することとしてはどうか。

(4)求人・求職・キャリアアップに関する官民情報の共有化

○成長分野への円滑な労働移動のためには、求職・求人に関して官民が有する基礎的情報が共有され、在職者を含めてリ・スキリング等についての助言を行うキャリアコンサルタント(現在6.4万人)が、その基礎的情報に基づき、コンサルティングがしやすい環境を整備することが重要。

○このため、

①ハローワークの保有する「求人・求職情報」を集約し、

②民間人材会社の保有する「求人情報」のうち、職種・地域ごとに、求人件数・(求人の)賃金動向・必要となるスキルについて、民間人材会社の有する求人情報は匿名化して、集約することとし、その方法については、人材サービス産業協議会の場において検討を行ってはどうか。

③民間の協議会・ハローワーク等に情報を集約し、一定の要件を満たすキャリアコンサルタントに基礎的情報を提供することとしてはどうか。

④官においては、ハローワークにおいて、キャリアコンサルティング部門の体制強化などのコンサルティング機能の強化を行ってはどうか。

○これらにより、デンマークなどにおけるフレキシキュリティの一環で行われている取り組みのように、官民で働く一定の要件を満たすキャリアコンサルタントが、職種・地域ごとに、キャリアアップを考える在職者や求職者に対して、転職やキャリアアップに関して客観的なデータに基づいた助言・コンサルを行い、個人経由の支援策について妥当性を確認することが可能となるのではないか。

※デンマークでは、政府が、賃金、求人といった客観的な指標を民間から集め、各職種の見通しを、緑・黄・赤といった形で半年ごとに明示。デンマークのケースワーカーはこれを参考に、良い職業に移動できるように労働者を指導する。失業給付等の補助金の支給にあたっても、ケースワーカーのコンサルを受けることが不可欠になっている。ケースワーカーの経歴は様々だが、IT技術を有し、指導についてのリ・スキリングを受けた者が選ばれている。

【4.多様性の尊重と格差の是正】

(1)最低賃金

○最低賃金について、昨年は過去最高の引上げ額となったが、今年は、全国加重平均1,000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論をいただく。

○また、地域間格差の是正を図るため、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げることも必要。

○今夏以降は、1,000円達成後の最低賃金引上げの方針についても(新しい資本主義実現会議で)議論を行う。

(2)労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化

○中小・小規模企業の賃上げ実現には、労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠である。

○政府としても、公正取引委員会の協力の下、労務費の転嫁状況について業界ごとに実態調査を行った上で、これを踏まえて、労務費の転嫁の在り方について指針をまとめる。また、業界団体にも、自主行動計画の改定・徹底を求める。

(3)同一労働・同一賃金制の施行の徹底

○同一企業内の正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇差を禁止する同一労働・同一賃金制の施行後も、正規労働者・非正規労働者間には、時給ベースで600円程度の賃金格差が存在する。

○同一労働・同一賃金制の施行は全国47か所の都道府県労働局が実施している。全国に321署ある労働基準監督署には指導・助言の権限がない。同一労働・同一賃金の施行強化を図るため、昨年12月から、労働基準監督署でも調査の試行を行い、問題企業について、労働局に報告させることとしたが、それに基づき指導・助言を行うかの決裁権限は労働局にある。

○600円程度の賃金格差が非合理的であると結論はできないが、本年3月から本格実施された労働基準監督署による上記調査の賃金格差是正への効果を見て、年内に順次フォローアップし、その後の進め方を検討する。

(4)キャリア教育の充実

○小学校・中学校・高等学校の総合的学習の時間におけるキャリア教育を充実させるべく、実施方法・事例を周知してはどうか。

○大学においても、キャリア教育の充実を図るためのカリキュラムの見直しを進めてはどうか。

○企業による大学でのキャリア教育を充実させるため、大学への共同講座の設置を促進してはどうか。

さまざまな労働市場改革の方向性が示されていますので、今後の動向が注目されます。

詳しくは、こちらをご覧ください。

参照ホームページ[内閣官房]

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai16/gijisidai.html

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